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歯周病と全身疾患

【歯周病とは何か】

歯周病(歯槽膿漏)は、日本人の成人の約8割が罹患しているとされる国民病ともいえる疾患です。多くの患者は自覚症状が乏しいまま進行し、歯を失う最大原因に挙げられています。歯周病は「細菌感染症」「であると同時に「慢性炎症性疾患」であり、その炎症が口腔局所を超えて全身へ影響を及ぼすことが近年強調されるようになりました。

歯周病は主に以下の2つに分類されます。

歯肉炎:歯肉の炎症。可逆的で適切なケアで元に戻る。

歯周炎:歯を支える骨や歯根膜が破壊される不可逆的な病態。

歯周病原性細菌が歯周ポケットで増殖し、免疫反応によって組織破壊が引き起こされますが、問題はこの細菌や炎症性物質が血流を通じて全身へ拡散する点にあります。

【歯周病と全身疾患の関連が注目される理由】

2000年代以降、歯周病と全身疾患の関連を示す高品質な研究が急増しました。その背景には次の要素が挙げられます。

・慢性炎症が全身の病態と強く関わることが広く認識され始めた
糖尿病、心血管疾患、認知症、がん、肥満など、多くの疾患で慢性炎症が鍵である。

・歯周病原細菌の病原性が分子生物学的に証明された
P. gingivalisが毒性因子(LPS、gingipainなど)を産生し、血管・免疫系に影響を及ぼすことが示されている。

・口腔が全身の一部として捉えられる医療モデルが普及
口腔は全身の健康を反映し、さらに全身に影響を与える臓器として評価されている。

【歯周病と糖尿病の関係(双方向性)】

◆ 相互に悪影響を与える「双方向関係」

歯周病と糖尿病の関係は最もエビデンスが確立しているテーマです。糖尿病患者は高血糖状態が続くことで免疫力が低下し、歯周病が悪化しやすくなります。

一方で、重度の歯周病患者では慢性的な炎症によりインスリン抵抗性が増し、血糖コントロールが悪化することが示されています。

◆ 歯周治療によるHbA1cの改善

メタ解析では、歯周治療(スケーリング・SRPなど)によってHbA1cが0.4%前後改善するという研究結果が繰り返し報告されています。これは経口薬1剤追加に匹敵する効果ともいわれ、医療関係者から高い注目を集めています。

【歯周病と心血管疾患】

◆ 動脈硬化との関連

歯周病が動脈硬化を進行させるルートは大きく3つに分類されます。

・歯周病原細菌が血中に侵入して血管内皮を傷害

・全身炎症(CRP増加など)が動脈硬化を促進

・免疫反応の異常が血栓形成に影響

特にP. gingivalisは動脈プラーク内部から検出されることがあり、心筋梗塞や脳卒中のリスク上昇が指摘されています。

【歯周病と誤嚥性肺炎】

高齢者にとって、誤嚥性肺炎は生命予後を左右する重大疾患です。口腔内にプラークが多い状態では、誤嚥時に細菌が肺に入り込み肺炎を引き起こしやすくなります。

介護施設での研究では、専門的口腔ケアにより肺炎発症率が減少したというデータが多数報告されています。

◆ なぜ口腔ケアが肺炎予防になるのか

・プラーク中の細菌を減らす

・舌苔や口腔乾燥を改善

・唾液の自浄作用を保つ

これらにより嚥下時の細菌流入量が減少することがポイントです。

【歯周病と認知症】

近年、非常に注目されているテーマです。特にアルツハイマー型認知症との関連が研究されています。

◆ 歯周病細菌が脳に侵入する可能性

・P. gingivalisの酵素「gingipain」がアルツハイマー型認知症脳から検出された

・歯周病モデルマウスで脳内炎症が増大し、アミロイドβが蓄積

これらの結果から、歯周病が認知症発症リスクを高める可能性が示唆されています。

【歯周病と妊娠】

妊娠中の女性はホルモンバランスの変化により歯周病が進行しやすくなります。また、歯周病は

・早産

・低体重児出産

などのリスク上昇と関連する可能性が指摘されています。

細菌や炎症性物質が胎盤に影響を与える可能性があり、妊婦の口腔ケアは非常に重要です。

【歯周病とがん】

まだ研究段階ですが、以下のがんと関連が示唆されています。

大腸がん

食道がん

膵がん

乳がん

歯周病による慢性炎症や免疫調整機能の変化が背景にあると考えられています。

【歯周病と肥満・メタボリックシンドローム】

脂肪組織は炎症性サイトカインを産生するため、肥満は歯周病のリスクを高めます。一方で歯周病による炎症が代謝異常を悪化させる可能性もあります。

「炎症」が共通キーワードであり、生活習慣病と歯周病は深く絡み合っています。

【高齢社会における口腔の重要性】

日本は世界有数の長寿国であり、高齢者の口腔状態が生活の質を大きく左右します。

◆ 口腔機能低下症(オーラルフレイル)

・噛む力の低下

・飲み込みの低下

・唾液分泌量の減少

これらは栄養失調、サルコペニア、認知症リスクの増大につながります。

◆ 歯が多いほど長生きする

厚労省研究では、歯が20本以上残っている高齢者は要介護リスクが低いことが示されています。

【歯周病予防と全身健康管理のための実践】

◆ 歯周病予防の基本

・毎日のプラークコントロール(歯磨き・フロス)

・歯科医院での定期的なメンテナンス(3〜6ヶ月)

・生活習慣の改善(食生活、禁煙、ストレス管理)

◆ 全身疾患がある場合の注意点

・糖尿病患者は厳密な血糖管理が重要

・心臓病がある場合は歯科治療前の医科連携が必要

・妊婦は妊娠中期の歯科検診を推奨

【予防歯科と医科連携の未来】

歯周病と全身疾患のエビデンスが蓄積されるにつれ、予防医療の観点から医科と歯科の連携が進展しています。

・糖尿病外来での口腔チェック

・高齢者施設での定期的な口腔ケア介入

・妊婦健診での歯科受診促進

日本の医療保険制度とも相性が良く、今後ますます重要度が増す領域です。

【まとめ】

歯周病は単なる口の問題ではなく、全身疾患と深く関わる全身性の慢性炎症疾患です。
糖尿病、心血管疾患、認知症、肺炎、妊娠合併症など、多岐にわたる病態に影響を及ぼす可能性が明らかになりつつあります。

だからこそ、口腔管理=全身の健康管理という視点が大切です。

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